2016-01-01から1年間の記事一覧

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よい大人だった。 それが、桃が薫に対して抱いた感想だった。きちんと、途中で止まったりすることなく大きくなったひとだ。そういう人は少ないと桃は思っている。正直だとか不器用だとかそういうものを魅力と呼べるのは子供の特権で、あとはもう、ずる賢く生…

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月曜日。カーテンの隙間から突き刺す冬のあかるさで目が覚めた。時計に目をやると、丁度アラームの鳴る2分前だったのでそのままアラームを切る。長いこと圭吾の朝食を作り続けていたせいか、毎朝大体決まった時間に起床できる体質なのだ。身体ごと改造されて…

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あとすこししたら理司が帰ってくるはずだ、と思いながら鍋の火を止める。 エプロンをほどいて洗濯機に放り込み、(もっとも理司が家にいるときにはものを放るようなことはしないが)、洗面所で軽く化粧を直す。 「理司くんは今までとても優しかったわ。」 一緒…

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「お客様がお掛けになった電話番号は、電波が届かない場所にあるか、電源が入っていないため、掛かりません」 軽いため息をついて、手に持った診察券を手帳に挟む。拾わなくても良かったかもしれないと思いながら。 仕事が終わってから駐車場に向かうまでの…

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「では、飲み薬と痛み止めを処方しておきますので、一週間経っても良くならないようでしたらまた。」 「はい。あの先生、私旅行を控えているので、少し多めにお薬を出していただけますか?」 「わかりました。無理なさらないようにしてください。」 「ありが…

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総合病院の隣にあるここは、西日がよく入り、時折ひどく眩しい。 いつだか夫が、「広くて綺麗なのに居心地が悪い」ーーーこの言葉は私が夫に対してもよく思うことなのだがーーーと言っていたけれど、その通りだと思う。全てを白で整えたこの部屋と、薬局特有…